「le Temps perdu」は、1989年7月7日に誕生した横浜最古のベルギービール専門店です。
パントマイマーでもあったオーナーのIKUO三橋が、修行時代パリで飲んだベルギービールの衝撃が忘れられず、帰国後、横浜は野毛に「ポンユー」という喫茶店を譲り受け店を構えました。
渋い褐色に変色したカウンター、高さが1メートルあるのっぽの赤い革の丸いす2脚、店内を突き抜ける真鍮製の柱、軋む木の床、天井にかかる大きな羽のファンは「ポンユー」からそのまま引き継ぎました。店にあるアンティークの品々は、オーナーのIKUO三橋が各国を回った際に集めたものです。
店の真ん中で大きく横たわるベンチは教会のもの。世界各国の調度品にはそれぞれに物語があり、それが海を渡り、合わさりあって「le Temps perdu」の独特の空間を形成しています。棚には色とりどりのラベルが貼られたオープン当時のベルギービールがずらりと並んでいます。(栓は開けていないので、飲めないことはないのですが…。)店名の「le Temps perdu」はフランス語で、「失われた時間(トキ)」という意味。失われた時間を求めてベルギービールを味わうのも一興です。
喫茶店「ポンユー」と美空ひばり
「le Temps perdu」の前身、喫茶店「ポンユー」は昭和22年(1947年)から営業を始めており、本物のコーヒーを出す店として、多くの方が足繁く通いました。
横浜の戦後復興は野毛から始まっており、「ポンユー」から目と鼻の先、都橋から野毛三丁目の交差点の約200メートル、野毛本通りの両側には、ヤミ市の露店が四、五百軒並び、毎日、食料、日用品を求める人々でごった返していたそうです。
そして、今は場外馬券場となっている場所には横浜国際劇場があり、そこでの出演の合間に笠置シヅ子や水谷八重子らが赤い丸椅子に座り、コーヒーを味わいにいらっしゃいました。そして当時、まだ子供だった美空ひばりは、イチゴミルクを好んで飲んでいたといいます。今でも柱につかまりイチゴミルクを飲む美空ひばりの姿を思い浮かべることができます。
週四でライヴ演奏
ジャズの街、野毛らしく週四(日、月、火、木)でジャズを中心にライブを行なっています。狭い空間で振動がダイレクトに伝わる生音は、コンサートホール、ライブハウスでのスピーカーをとおしてのものに決して引けを取りません。逆に鮮烈な音楽体験として思い出の奥底に残ることでしょう。
ちなみに横浜は日本のビール発祥の地
明治3年(1870年)、米国人のウィリアム・コープランドによって横浜・山手にビール醸造所「スプリング・バレー・ブルワリー」が設立され、日本で初めてビールの醸造・販売が開始されました。外国人の手による日本初ですが、麒麟麦酒(キリンビール)はこれの流れを汲んでいます。
ビール発祥の地で、戦後の復興に想いを馳せ、上質な音楽に耳と体を傾けながらベルギービールを飲む贅沢なひとときをお楽しみいただければ幸いです。